都内の私立大学として創立が古いにも関わらず、なかなかその素性が知られていない明治学院大学。そんな同大の魅力について、教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。
都内私大で慶大、学習院に次ぐ歴史
東京都内で創立が古い私立大学といえば、京都御所に開講された学習所を起源とする学習院大学(豊島区目白)や慶応義塾大学(港区三田)がよく知られています。
しかし2校に次いで長い歴史を持つ大学が、明治学院大学(港区白金台)であることはあまり知られていないでしょう。今回はそんな明治学院大学を紹介します。
明治学院大学のルーツは、ヘボン式ローマ字の考案者として有名なアメリカの宣教医、ジェームス・カーティス・ヘボンが1863(文久3)年に横浜に開校した私塾「ヘボン塾」までさかのぼります。
ヘボン塾は日本最古のミッション・スクールで、1886(明治19)年に他の宣教師が設立した複数の私塾と合併したことをきっかけに、明治学院と名を改めました。
キャンパス内には国の重要文化財も
1887年に、現在のキャンパスがある港区白金台に移転。大学としての認可は戦後の1949(昭和24)年におり、現在に至る明治学院大学がスタートしました。
名前が似ていることから、明治学院大学は「MARCH」の一角を担う明治大学(千代田区神田駿河台)とよく混同されがちです。しかし明治大学という名前は1903(明治36)年に前身の明治法律学校から改称されてからのものであるため、名前の歴史も明治学院大学の方が古いことになります。
日本最古のミッション・スクールである明治学院大学の白金台キャンパスには国の重要文化財等に指定されている、貴重な三つの建築物が残されています。
関東大震災や戦火の影響もあり、東京都内に明治期や大正期の建築物が無傷で残っていることはまれで、まさに奇跡と言えるでしょう。
礼拝堂内のパイプオルガンは17世紀から18世紀までのパイプオルガンを再現するため、オランダの専門家に依頼し、12年の歳月を費やし伝統的な工程で修復されました。これらの貴重な建築物は、白金台の地に異国情緒漂う雰囲気を醸し出しています。
ミッション系の文系大学の伝統を貫く
このような古い歴史を持つ明治学院大学ですが、他の有名大学が学部を増やす路線を選んだのとは対照的に、文系のみの6学部16学科、7研究科12専攻で構成されています。
創始者のヘボンは医師だったため、純粋な文系大学となったのは何とも皮肉な結果ですが、ヘボン自身も横浜で診療所を開設していた傍ら、日本最初の和英辞書を編さんするなど、欧米式の医学の普及より、英語教育に力をいれていたのです。
もしヘボン自身が公的機関や私塾で欧米式の医学を教える機会があったならば、明治学院大学の歴史も大きく変わっていたかもしれません。しかし1985(昭和60)年、広大な横浜キャンパス(横浜市戸塚区)が開校したものの、その前後においても理系学部設立の動きはみられませんでした。
なお明治学院大学は1~2年次、主に横浜キャンパスで、3~4年次は白金台キャンパスで学ぶシステムを導入しています。横浜キャンパスの交通の便はお世辞にもよくありませんが、欧米の大学と同様、郊外型のキャンパスは学生が集中して勉学に励むのにうってつけと言えます。
充実した就職支援体制
明治学院大学の大学院進学率は3%台と、学部卒業とともに就職する学生が圧倒的に多くなっています。
こうした現実を踏まえ、大学側も就職支援に本腰を入れており、単なる就活サポートではなく、ミッション系大学として「Do For Others(他者への貢献)」の重要性を説いています。
3年生が受講できる就活ステップアップ講座は、かつて企業の人事担当者を務めたキャリアコンサルタントなどが講師を務めているため、「インターシップの特徴」「企業の欲しい人材」を就活前に詳しく知ることができます。
就活生は単なる就職支援ではなく、就活の具体的な過程を学ぶことができるのです。
航空業界に特化した就職に向けた講座も
明治学院大学のキャリア講座の中で特に目を引くのは、MGキャリア講座に設けられた「ヘボン・エアラインクラス」です。
同クラスでは、キャビンアテンダントやグラウンドスタッフといった航空業界に特化した就職に向けた講座を行っています。受講学生の就職率は2018年度卒業生で100%と極めて高く、そのうち約8割が狭き門である航空業界への就職の夢をかなえています。
こうした特色ある就職支援のほか、安定した人気を誇るのが公務員セミナーで、1年生から行われています。このような取り組みは、学生の向き不向きを自覚させることにもつながり、大学全体で学生の卒業後の進路に向けた準備を行っていると言えるでしょう。
「Do For Others」の精神は今日も
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、多くの大学学生側が困窮している中、明治学院大学は私立大学としては最初に具体的な救援策を打ち出しました。
4月21日(火)、オンライン授業導入までにかかる経費を考慮し、学生全員にひとり5万円を支給すると発表したのです。
また春学期の納入期限を5月末日までとし、経済状況が急変し学費を納めるのが困難な学生に対して緊急の奨学金を受けられるよう検討するとしています。
昨今の緊急事態の中においても、創始者のヘボンが大切にした「Do For Others(他者への貢献)」の精神は、明治学院大学に今も脈々と受け継がれていると言えるのではないでしょうか。