有名仏教系大学として広く知られる大正大学。そんな同大の取り組みについて、教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。
宗派の垣根を越えた大学
大正大学(豊島区西巣鴨)は1885(明治18)年設立の天台宗大学を起源とし、真言宗豊山派、浄土宗の三つの宗派による連合仏教大学として、1926(大正15)年に創立されました。
その後、1943(昭和18)年に真言宗智山派の専門学校も合併。現在は時宗も運営に参画するなど、宗派を越えた仏教系大学です。
文系大学として6学部10学科を有している大正大学は1963(昭和38)年、時代に先駆けて、大学付属機関として「カウンセリング研究所」を設置。専門家によるカウンセリングを開設し、校外の人も利用することができます。
宗教系大学としての社会貢献を考える姿勢は現在も受け継がれており、巣鴨という仏教と親和性の高い街にキャンパスがあることをうまく活用しています。
7月には、在学生が企画運営をする「鴨台(おうだい)盆踊り」をキャンパス内で行い、2019年は過去最多の来場者数を記録しました。開催や危ぶまれた2020年は、オンライン盆踊りという斬新なアイデアでの開催が決定しています。
大正大学は都心にキャンパスがあるものの、地域密着型で穏やかな雰囲気がありますが、就職率や志願者数の増加傾向がここ数年続いています。少子化が続くなか、文系学部のみの大正大学はどういった改革を進めてきているのでしょうか。
就職率がわずか6年で15ポイント増加
大正大学の2013年3月卒業生の就職率(就職希望者を分母)は83.4%でしたが、その後右肩上りが続き2019(平成31)年3月卒業生では98.8%を記録しました。わずか6年で15ポイント以上の伸びたことは驚異的です。
これは、大学として就職に向けた万全のサポート体制を敷き、学生がベストな状態で就職活動に臨めるよう力を注いできた結果と言えるでしょう。
また就職活動期間の限定が今後撤廃される可能性もあるため、入学段階から学生が将来のキャリアを考える授業「トランジション 高校から大学へ」を行ったり、教育アプリを利用して基礎学力を徹底して鍛えられるよう促したりしています。
そのほかにも、就職活動で避けられない応募書類の添削や面接指導や、筆記試験として多くの企業に導入されているSPI総合検査対策の講座が行うなど、手厚いサポートを徹底しています。
就職課による丁寧な面談も
3年次には就職課が全学生と面談を行い、学生ひとりひとりの意志や興味関心のある職種を確認する大規模な取り組みを行っています。希望制の面談を行うケースは他の大学でもよく見られますが、全学生と行うことを前提としているのは労力が伴います。
一方、就職課といった専門の課が学生と面談することで本人の適職を導き出せるメリットもあります。手間暇をかけてじっくり取り組んだ成果が、就職率の上昇に表れているのです。
志願者数が数年で2倍に
志願者数も大きな変化が起きています。
社会人や留学生、編入を除いた入試の志願者数は2013年から2015年の間、5000人と6000人の間で推移していましたが、私立大学の定員厳格化が始まった2016年を境に志願者数は増加しました。
2018年には1万人を突破し、2019年は1万1000人を超えるなど数年で約2倍に。そして志願者数増加で合格が狭き門となってきたことを避けるためか、安全志向が強まった2020年の入試では志願者数が約9700人に落ち着きました。
AO入試と公募推薦や指定校推薦などの推薦枠での志願者数を合わせると、2018年から800人を超えており、確実に大正大学を志望する受験生が増えてきています。
キャンパスは西巣鴨のみでアクセスもよく、就職活動での手厚いサポートや実績は受験生や保護者にとっては魅力的です。都内の私立大学は定員厳格化によって安定志向が続いているため、志願者数のふり幅はあるものの、今後しばらくは人気を維持すると見られます。
少子化の時代でも攻めの姿勢を貫く
大正大学はまた、2026年度の創立100周年に向けて攻めの姿勢を見せています。
学生と巣鴨の三つの商店街が連携して設立した一般社団法人が、日本各地の特産物を紹介するアンテナショップ「座・ガモール」を3店舗を運営するなど、地域密着型の大学を目指しています。
さらに地元・巣鴨だけでなく、地方との連携の動きも加速しているのです。
奨学金型の地域人材育成入試も
設立90周年の年に新設された地域創生学部は、日本各地の自治体と連携し、さまざまな研究や抱えている問題を一緒に解決する実学を大切にしています。
その背景には大学の名を地方に定着させ、「東京に出て大正大学で学びたい」という若い人材を発掘する狙いもあります。
また同大に学部入学を志望し、地元の企業に将来就職をする志を持つ、離島を除く東京・埼玉・神奈川・千葉を除いた自治体在住の高校生を対象に、奨学金型の地域人材育成入試を実施しています。
ただし専願や出願条件が明記されており、誰もが合格するものではありません。また勉学がおろそかにならないよう、大学の成績によって2年次から免除打ち切りにもなる厳しい面もあります。
都内私大のモデルになるか
少子化が進む中、都内の大学では「全国からいかに優秀な人材を集めるか」が大きな課題となっています。
大正大学は地方自治体との連携プロジェクトで全国の認知度を浸透しつつ、就職率の高さも相まって受験生の志願先として選ばれるよう、思い切った行動に打って出ています。裏を返せば、現在は、東京にある大学だからといって受験生が押し寄せる時代ではなくなっているのです。
受験生や保護者は、地方とのつながりや就職へのサポートを重要視しています。これから大学が生き残っていくためにも避けられない条件を積極的にアピールしていく大正大学の方針は、都内私立大学のひとつのモデルになるかもしれません。