専門性に特化した大学に年々注目が集まるなか、1年間で5000人も志願者を増やしたのが東京工科大学です。そんな同大について、教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。
絵画と洋裁学校が起源
季節は冬へと移り変わり、2020年も受験シーズンが近づいてきました。ここ数年、私立大学の定員厳格化の影響で受験生の安定志向が強まっています。加えて2019年は大学共通入学テストを避けるため、例年以上に現役志向も加わりました。
そんななか、確実に合格するためにAO入試・推薦入試を利用する学生が増加しており、一般入試組にとっては厳しい状況が続いています。結果として、人気が高い有名私立大学の志願者は軒並み減少しました。
一方、安定志向の影響を受けて志願者が急増した大学もあります。そのひとつが東京工科大学(八王子市片倉町)です。
AO入試やセンター試験利用入試を含む、計6回の入試への志願者数は2019年よりも5256人増加し、2万1095人となりました。
東京工科大学はバブル景気で日本中が活気をみせていた1986(昭和61)年、八王子市に創立されました。大学を運営する片柳学園(大田区西蒲田)はこのほかにも日本工学院専門学校(同)などを有しています。
そのため「技術系の学校法人」というイメージが強いですが、その前身である創美学園は戦後まもない1947(昭和22)年、絵画科と洋裁科からスタート。現在の東京工科大学のイメージとは大きく異なっていました。
戦後の混乱期、生計を立てられる技術が身につく専門学校は需要がありました。その後、創美学園は日本で始まったばかりのテレビ放送を支える技術者の育成を目指し、日本テレビ技術学校を1953(昭和28)年に開校。この設立が、後の東京工科大学へとつながることになります。
実学重視の理系総合大学
開学当時は工学部のみの単科大だった東京工科大学は現在、6学部を擁する理系総合大学にまで成長しました。なお同大の理念は「生活の質の向上、技術の発展と持続可能な社会に貢献できる人材を育成する」で、実学重視の校風となっています。
現在は、
●工学部
・機械工学科
・電気電子工学科
・応用化学科
●コンピュータサイエンス学部
・人工知能専攻
・先進情報専攻
●メディア学部
・メディアコンテンツコース
・メディア技術コース
・メディア社会コース
●応用生物学部
・生命科学・医薬品専攻
・食品・化粧品専攻
●デザイン学部
・視覚デザイン専攻
・工業デザイン専攻
●医療保健学部
・看護学科
・臨床工学科
の6学部5学科6専攻3コースから成り、約38万平方メートルの八王子キャンパスと、大学院生と医療保健学部の生徒が学ぶ蒲田キャンパスに計7455人が在籍しています(2020年度)。
2021年度には医療保健学部に新たにリハビリテーション学科が加わり、将来性の高い分野の人材育成を目指しています。
受験生の安定志向の受け皿に
前述のように、東京都などの大都市に学生が集中するのを防ぐため、私立大学の定員と合格者数は2016年度から厳格に管理されるようになっています。それに伴い、私立大学のレベルは年々上がっています。
大学の合格を確実に手に入れたい受験生は「絶対に合格できる大学を受験する」と安定志向が加速。全国的な知名度を誇る有名大学を敬遠する動きが強まっています。
このような背景もあり、都内にいながら専門的な知識を学べる東京工科大学はそうした受験生の受け皿となり、2019年度より志願者数が5000人も超える事態となったのです。
東京工科大学は文系学部がないにも関わらず、志願者数が大幅に増えたのは異例のことです。私立大学の定員厳格化だけでなく、同大の「卒業してもプラスに働く」という考えがこの結果を生んだと言って過言はないでしょう。
就職氷河期への不安でさらに志願者は増えるか
東京工科大学の入学試験のひとつに「奨学生入試」があります。この入試に合格し、入学した学生には返還義務のない年額130万円の奨学金が最長4年間支給されます。コロナ禍により親の収入が減少し、進学資金や在学中の学費に不安を感じている受験生や親にとって、最適な制度と言えます。
ここ数年続いていた売り手市場は新型コロナウイルスの感染拡大で終了し、一部では1990年代ような就職氷河期が到来するとささやかれ始めています。
専門性の高い理系学部は不況になると志願者が増える傾向があり、受験生の安定志向と就職氷河期への不安から東京工科大学への志願者はさらに増えることが予想されます。
これからは「どこの大学を卒業したか」よりも「大学で何を学び社会に貢献できるのか」が重要視される時代です。東京工科大学のような専門性に特化した大学が人気を集めることは間違いありません。