赤れんがの建物入り口の回転扉。半回転すると、クラシカルなヨーロッパ調の佇まいが目に飛び込んできます。創業当時より、文化人や新劇の俳優などのお目当てとなったという名物を楽しむことができます。
銀座の喧騒を逃れ、気分はパリジェンヌ?
人影まばらな銀座の朝8時前。訪れた9月初旬、銀座5丁目にある「トリコロール」本店の前では、すでに数人が開店を待っていました。
赤れんがの外壁前に、ヨーロッパを思わすレトロなガス灯、アイビーの葉に覆われた窓辺の花飾台横にはフランス国旗。そして、入り口の木製の回転扉が、この一角だけを異空間のような空気で包んでいます。
扉を半回転させて中に入ると、一転してパリのような雰囲気。店内は「ボンジュール!」とフランス語が飛び交いそうな趣で、コーヒーの香りが漂ってきます。
トリコロールの創業は1936(昭和11)年。コーヒー豆の販売をしていた故・柴田文次氏が、その美味しさを世間に広めようと、銀座にもとよりあった「トリコロール」を譲り受けて開店しました。
2階建ての店内にはらせん階段があり、入口のガラスにはフランス風の「いたずら書き」のような女性の絵。客席に大きさの異なる大理石のテーブルを配置するなど、当時より洒落(しゃれ)た喫茶店だったそうです。
同店舗は戦時中に焼けてしまい、再建された2代目は1982(昭和57)年に現店舗に改築されました。天井の高い1階、自然採光の天窓が設けられた2階。さらに、ヨーロピアンアンティーク調のインテリアが非日常感を演出していて、銀座の真ん中にいながら、心地よくゆったりと寛げます。
「はかなさ」が感じられるモボ・モガが愛したエクレア
創業当時の昭和初期、コーヒーを楽しみに文化人や新劇、新派の俳優、モボ・モガ(1920年代に使われた「モダンボーイ」「モダンガール」の略語)がこぞって訪れ、華やいだサロンだったといいます。
コーヒーと並んで彼らのお目当てのひとつとなったのがエクレアやプチフール。そんな古き良き時代への思いを込めて、創業70年を機にエクレアを新たに再現し、現在も人気商品となっているそうです。
このエクレアのシュー(皮)は、注文を受けてから温めてクリームを挟むため、皮が水分や油分を吸収せずサクサクしているのが特長です。シューがサックリとしていることで、挟まれたクリームのフワッとした食感と口溶けに「はかなさ」が感じられ、後を引きます。
エクレアとベストマッチの飲み物が、ボディーのしっかりとしたオリジナルブレンドコーヒーです。中南米産の豆で、繊維質の強い、高山で収穫したものを使用しています。
これは、昭和30年代に日本が特恵国扱いで良い豆が入ってきた頃の味を再現するためで、「アンティークブレンド」と名付けています。全て注文を受けてから豆を挽き、特注品のネルとロト(ドリッパー)を使ったネルドリップ方式で抽出。芳醇な香りとコク深いコーヒーを生み出しています。
本店のケーキは、自社のパティスリーで全てパティシエが作っている自家製です。アップルパイのみ銀座の店舗内で製作しています。リンゴの皮剥きからはじめ、それらを煮込み、パイ皮で包んで焼成。温かい状態で提供され、甘さ控えめで、リンゴの酸味とのバランスがほど良い加減に仕上がっています。
その他に季節のメニューとして、マロンにイチゴ、マンゴーやアイスクリームなどのパイの用意もあります。どのケーキも、看板メニューのアンティークブレンドコーヒーに合う味わいに仕上げているそうです。
訪れた日の早朝のトリコロールは、人がまだ少なくて静か。身なりの整った老夫婦が壁際の席に腰を下ろし、常連らしき雰囲気で注文を口にする様子が、カフェが暮らしに溶け込んだパリの朝のワンシーンを見ているかのようでした。
【トリコロール本店】
東京都中央区銀座5丁目9-17
地下鉄各線「銀座駅」A5出口から徒歩約3分
営業時間:月曜〜金曜 8時〜20時30分(L.O.20時)、土曜・日曜・祝日 8時〜21時30分(L.O.21時)
※価格は全て2018年10月現在のものです。