1990年の開館以来、コンサートや演劇など、身近に芸術に触れられる場所となっている池袋の東京芸術劇場。ここで定期公演を行っているのが日本フィルハーモニー交響楽団です。テレビや映画などで奏でられる音楽を演奏する楽団として耳に、あるいは目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。この日本フィルハーモニー交響楽団は「芸劇シリーズ」と題して、東京芸術劇場で250回を超える演奏会を開いてきました。そして次回の「芸劇シリーズ」では、私たちにもとっても身近なある作曲家をフィーチャーした演奏会が開かれることがわかりました。
その作曲家とは、2023年3月、惜しまれつつ亡くなった坂本龍一氏です。氏は伝統音楽やジャズ、現代テクノロジーといった幅広い音楽を融合させて独自の音楽世界を築き上げ、多くの音楽ファンに影響を与えてきました。イエロー・マジック・オーケストラ時代の氏の音楽のファンという方もいれば、数多くの映画音楽を手がけた氏のファンという方もいらっしゃるでしょう。かつて放送されたNHKの番組「スコラ 坂本龍一 音楽の学校」を観ても分かる通り、自らの来し方や、音楽の歴史・価値について、多くのことを言語化し、伝える姿はまさに氏のニックネームである「教授」の名に相応しい、また彼にしか成し得ない俯瞰的な見地からの仕事であり、業績だと言えます。
そんな坂本龍一作品から『箏とオーケストラのための協奏曲』、映画 『ラストエンペラー』より「The Last Emperor」、地中海のテーマ(1992年バルセロナ五輪開会式音楽)、そしてドビュッシーの《夜想曲》と 武満徹の組曲 《波の盆》より「フィナーレ」を、今回日本フィルハーモニー交響楽団が奏でます。クラシック音楽を学び、オーケストラも指揮した彼の作品を今一度クラシックの文脈の中で捉え直してみることで、その立ち位置と普遍的価値の理解により一層の深みをもたらすに違いありません。
日本の音楽をこよなく愛する日本フィル首席指揮者カーチュン・ウォンがタクトをとり、箏には遠藤千晶、80人規模の合唱に東京音楽大学、そしてピアニスト中野翔太の出演も決定したスペシャルな演奏会をどうぞお聴き逃しなく!
また、本公演に向けて、監修を務める早稲田大学文学学術院教授で音楽・文芸批評家の小沼純一氏は以下のようなコメントをつづっています。
「坂本龍一が世を去って、1年。日本フィルはこの音楽家への敬意を、コンサートというかたちであらわします。あまりふれる機会のないオーケストラ作品をステージで演奏する。音楽家じしんが敬愛し、意識していた先達の作品もあわせて提示します。
中心に据えられるのは、《ラストエンペラー》とともに、バルセロナ・オリンピック開幕のための《地中海のテーマ》と《箏とオーケストラのための協奏曲》、2つのオリジナルのオーケストラ作品。《協奏曲》は2010年に関西圏と関東圏で演奏されて以来再演されていません。これらはまた、映像や物語に付随することなく、描写的なタイトルもなく、楽器の音そのものによって構築される、音・音楽と聴き手がじかに対面できる作品です。
《雲》のゆったりしたさま、時間の感覚は、音楽家のなかに生きつづけてきました。武満徹へは、若き日のアンビヴァレンツなおもいをこえ、いくつかの作品のテクスチュアへの愛着を隠しませんでした。武満徹の映像とともにある音楽を、ドビュッシーとのつながりも考慮し、坂本龍一作品のあいだに配置する。プログラミングはそのようになっています。ドビュッシーや武満徹の音楽を対照しながら、「オーケストラ」という媒体をとおしてあらわれてくる坂本龍一の顔貌にふれる、かならずや貴重な機会となるでしょう」
【イベント情報】
第255回芸劇シリーズ「作曲家 坂本龍一、その音楽とルーツを今改めて振り返る」
東京都豊島区西池袋1-8-1 東京芸術劇場
03-6914-0019
2024年6月2日 (日) 13時開場、14時開演