明治天皇にも献上 銀座木村家が150年貫く、不変の「あんぱん哲学」とは

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あんぱんの元祖といえば、創業150年を迎えた銀座木村家。日本のパン文化の広がりに大きく貢献した同店。創業時から変わらないこと、変わったこと、あんぱんが手のひらサイズである理由を聞きました。

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木村家のあんぱんは「生地ありき」

 銀座の中央通りにすっとそびえ立つ縦長のビル。ここから生まれるあんぱんを、「元祖」と知る人は少なくないでしょう。

 銀座木村家。創業150年を迎えた今も、あんぱんを求める人を始めとした来客は絶えず、平日の日中であっても、店内はぎゅうぎゅう……ということも珍しくありません。

銀座木村家の売り場の風景(2019年、高橋亜矢子撮影)

 そんな同店のあんぱん(税込170円)は手のひらサイズで、天辺に桜の塩漬けが乗っているのが特徴。桜の塩漬けは、明治8(1875)年に明治天皇に献上された時からのスタイルといいます。

「『あんぱんの大きさ、小さくなりましたか?』と聞かれたことがあるんです。ですが、うちのあんぱんの大きさは、ずっと変わっていません。生地とあんのバランスが一番ベストなところが、この大きさなんです」

 そう話すのは、同店の広報を担当する上野さん。「『お腹を満たすため』というのではなく、味わって食べるのに、この大きさは丁度良いともいえます」とのこと。

 同店のあんぱんは、イーストではなく、酒種酵母を用いるのが大きな特徴です。酒種は、麹、米、水でつくられており、イーストとの大きな違いは2つ。発酵時間と風味です。発酵には、約24時間を要するのだとか。長い時間をかけ、熟成させることで、強い風味が生まれ、生地にしっかりとした食べ応えが生まれます。

「うちのあんぱんは、生地が大切なんです」と上野さん。

「生地にあわせてあんこを調合し、包んでいるんですよ。生地の味が強いので、従来のあんこを入れるとあんこが負けちゃうんです。なので実は、少し糖度が高めなあんこを使っています」

 酒種酵母を発酵させた生地を用いたパンは9種類以上。そのどれもが、生地ありきで、それに合わせた中身を作っているといいます。なかでも特徴的なのがジャムパン(税込200円)で、あんずといちじくのジャムが使われています。

生身の感覚から「毎日同じものを作り出す」

 あんぱんの歴史も古いですが、ジャムパンの歴史もまた古く、誕生は明治22(1889)年。ビスケットから着想を得て、作り始めたといいます。なお、あんぱんの誕生は明治7年で、こちらの着想のヒントは「酒まんじゅう」なのだとか。

酒種酵母でつくられたパンは、木箱に入った状態で販売されている(2019年、高橋亜矢子撮影)

 当時、すでに「パン」自体は海外から伝来し、出回ってはいたものの、口当たりのハードな、固いものだったといいます。まだイーストも出回っておらず、パンの工程に必須ともいえる「発酵」が難しかった時代でした。

 そんななか、誕生したあんぱんは、日本人の口にもよく馴染み、生まれてすぐに人々の注目を集めました。

「当時、店の床が壊れそうなくらい、人が来たと伝え聞いています。そこから人気に火がつき、明治8年に天皇に献上するきっかけに結びついたようです」

 そんなあんぱん、今と昔とでほぼ変わらないといいます。材料が変わらないのではありません。職人たちが毎日、自らの感覚を駆使し、同じクオリティの生地を生み出しているからです。

「一番長い人で、勤続50年くらいでしょうか。70代の方もいらっしゃいます」

 酒種を扱う職人が丹念に生地を作り上げたあとは、別の職人たちがパンの形成を行います。週末には約1万個のあんぱんが焼かれ、店に陳列されるという同店。成形は、7、8人の職人の手で行われているそうです。

「すごいスピードでつくっています。生地を一定のサイズに分割するところだけは機械ですが、それ以外は全部手でやっているんです。あんを詰める作業も、計量せずとも、何回やっても同じ重さにできちゃうんですよね」

 いずれの職人も、湿度、温度、天候などが日々移りゆくなかで、どうやったら「同じパンを世に送り出せるか」を考え、調整を図っているといいます。

「日々考えながら作っていることが、側から見ているだけでも伝わってきます。同じものを作り出すのが、使命であり、技ですから。『作業』を繰り返すだけでは出来ないことです。本当にすごいんですよ。尊敬しています」

目まぐるしく変貌するパンや「変わり種」も

 そんな木村家ですが、あんぱん以外の部分では、大きく変わり続けているといいます。2015年には、ビルの上階にあるレストランに、かつて銀座の名店といわれたフランス料理店「マキシム・ド・パリ」の料理長らが入社。

「せっかく一流の料理人が来たのなら、その料理の腕を活かしたパンを出せないだろうかと考え、『ミートパイ』や『ピロシキ』などを販売するようになりました。料理人とパン職人、お互いが『こんなパンが良いのではないか』と対話しながら、新しいパンを作り出しています」

一流料理人が具の調理を担当した「ピロシキ」や「ミートパイ」も販売されている(2019年、高橋亜矢子撮影)

 さらに、各パン職人も随時、自発的に新製品を提案しているとのこと。社長にプレゼンを行い、通れば、すぐに店頭に並ぶといいます。

「皆、結構チャレンジしています。やらされるのではなく、やって評価されることが自信にもつながっているようです」

 そして、まったく変わらないあんぱんにも、変わり種の商品がありました。なんと、30個分の大きさの大サイズ(4500円)や、50個分の大きさの特大サイズ(8500円)があるのです(いずれも購入の際は1週間前に予約要)。

「内側はマトリョーシカのように、あんぱんが何重かになり、層をなしています。ただあんを包んで焼くのだと、この大きさにはできないんですよね」

 どんな味なのでしょうか? 聞いたところ「歯ごたえがあるんですよ」とあんぱんらしからぬ回答。「味は、小さい方が断然美味しいですよ」とのことですが、パーティーなどで喜ばれそうと感じます。

「良い物を作り続けて、売り続けているだけ」

「うちは、良い物を作り続けて、売り続けているだけです」と淡々と、でもはっきりとした口調で話す上野さん。

「創業者は先見の明があったのかもしれませんが、始めた頃には、まさか今のようになることまでは、想像していなかったのではないかと考えています。お店がここに出来た当時は、銀座もまだ、そこまで栄えていませんでした」

 むしろ、同店の存在が、銀座発展の要因に数えられるのかもしれません。

 歴史が動くきっかけは、人間ひとりひとりの手の中に。木村家から生まれるパンの数々は、これからも根幹の部分を変えることなく、続いていくのでしょう。

【銀座木村家】
東京都中央区銀座4-5-7
東京メトロ各線「銀座駅」A9、A10出口からすぐ(※2019年9月頃までは、A9出口は工事のため閉鎖中)
10時~21時、無休(大晦日、元旦を除く)

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