千葉県北西部、手賀沼のほとりにある『道の駅しょうなん』。柏市の農業や観光の拠点としてだけでなく、まちづくりの拠点としても活用されている。
大きな三角屋根の建物は、地域のエントランス。ここを拠点に、さあ手賀沼周遊へ。

JR柏駅から車でしばらく走ると、手賀沼のほとりに大きな三角屋根が連なる建物が見えてくる。2021年にリニューアルされた『道の駅しょうなん』のメイン棟で、直売所『知産知消マルシェ』や『ちゃのごカフェ』、『加工体験室』が入っている『てんと』だ。

平日でも9時の開店前からお客さんが待っていて、休日ともなれば長蛇の列。お目当ては、『知産知消マルシェ』に並ぶ地域の農家さんが心を込めて育てた新鮮な旬の野菜。品揃えが豊富なうちに買いに行こうと、多くの人が訪れる。






地域とのつながりを感じることができる道の駅。
『道の駅しょうなん』がオープンしたのは、周辺がまだ沼南町だった2001年。質のよい野菜や都心から電車や車で1時間ほどという立地のよさで、来場者は年間100万人を超え、車が駐車場に入りきらないほどだった。
05年に沼南町は柏市と合併。農業が盛んで、豊かな自然が残る旧・沼南町エリアの活性化が議論される中、15年頃から『道の駅しょうなん』のリニューアルが検討され始めた。「来場者の多くの目的は道の駅だけ。そこで道の駅を地域への『エントランス(入口)』に、『手賀沼フィッシングセンター』と『わしのや農業交流拠点』の2か所が中継地点となって、手賀沼周辺を回遊してもらい、地域の交流人口を増やして活性化につなげようとなりました」と柏市役所経済産業部農政課の音喜多宏希さんは語る。

「地域の入口となる道の駅」には何が必要なのか。行政と地域の農家、NPO法人、事業者などが集まった『手賀沼アグリビジネスパーク事業推進協議会』(以下、アグリ協議会)で話し合いを重ねた。建築家としてその思いを受け止めたのは設計事務所『NASCA』の桔川卓也さん。『てんと』の屋根は元々あったイチゴハウスの屋根を模し、大きく風景が変わらないようにした。さらに柏市や我孫子市、しょうなん地域など、どこからアプローチしても正面に見えるように設計されていて、まさに「地域の入口」としての機能を象徴する建物となった。
同時に進められたのが「ブランディング」だ。クリエイティブ・ディレクターの鎌田順也さんが参加し、『アグリ協議会』と1年をかけて運営方針やコンセプトを議論し、そこから生まれた「地域のまちづくりにトータルに深く関わる」というビジョンは冊子にまとめられ、道の駅のウェブサイトにも掲げられている。駅長の木村美穂さんは当初「なぜそこまで?」と思ってしまったそうだが、今は道の駅に関わる人たちの指針であることを疑わない。「単なる商業施設ではなく、地域とのつながりが感じられる場所」にしたいという思いが関わる人たちの間に生まれ、商品開発や店内ディスプレイにも生かされているからだ。例えば「深山のおかき」。地元の知る人ぞ知るおせんべい屋さんの商品を、道の駅オリジナルの小さなパッケージにして販売した。「直売所を『知産知消マルシェ』と名付けたように、ここで商品を知ってもらい、お店に足を運ぶきっかけになれば」と木村さん。生産者の顔や商品の背景を紹介するポップや、柏市の農業について紹介するパネル設置も同様の考え方からだ。

道の駅の中にまちづくりの拠点を設ける。
同時に『アグリ協議会』では、地域の回遊性を高めるために、しょうなん地域での収穫や稲刈り体験、自然観察などコンテンツの充実に取り組んだ。その中で、耕作放棄地が増えていることや少子高齢化で地域のお祭りや伝統行事の担い手不足など、地域の課題も見えてきた。
そこで、『てんと』のインフォメーションで地域の相談も受け付けてはどうかという意見があがり、『手賀沼まちづくりセンター』の機能も持たせることになった。インフォメーションのコンシェルジュは、地域の子どもたちの自然体験活動を行っているサークルの女性たち。地域をよく知っていて、彼女たちが取材などを行ったガイドブック『TEGA LOVE』も発行している。



ただ『手賀沼まちづくりセンター』としてみたものの本当に相談がくるのか、不安もあったと音喜多さんは率直に語る。「ところが、『子どもたちが育てたカブを売りたいのだけど』と小学校の先生が相談にいらして、『てんとこどもマルシェ』というイベントをすぐに実施できました。道の駅に相談窓口があることで、市役所に出向くよりもハードルが下がり、スピード感を持って対応できることがわかりました」。また、しょうなん地域はブルーベリーやイチゴの栽培が盛んで、摘み取り体験や直売を行う農家も多い。そうした農家や飲食店、洋菓子店を周遊してもらうためにスタンプラリーを実施したところ、「同じノボリを立てて地域の一体感や楽しい感じが生まれた」「来年はうちも参加したい」という声が届いた。
道の駅とまちづくりの連携が、少しずつ始まっている。出荷する農家さんのモチベーションを高め、お客さんとの距離を近くしたい、芝生広場を地域のイベントなどにもっと有効に活用したいなど取り組みたいことはたくさんある、と音喜多さん。「今、『アグリ協議会』をまちづくり事業を行う組織編成にして、より地域づくりに関わっていこうという話が出ています。『こんなことをしたいから手伝ってほしい』という地域の人たちと行政の間に入り、まちづくりを支援できる団体になれるのではと思っています」。





【スポット情報】
道の駅しょうなん
千葉県柏市箕輪新田59-2
04-7190-1131
9時〜18時
定休日 1月1日〜1月4日
