江東区で江戸情緒を味わおう! 水曜開催「和船の乗船体験」、有休使って行くしかない!

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東西線東陽町駅から1.5km離れた横十間川親水公園で、江戸時代に活躍した和船に乗ることができます。しかも無料。さっそく体験してきました。

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東陽町駅から約1.5km、乗り場は親水公園内

 2018年6月に「働き方改革関連法」が可決、成立したことで、有給休暇5日の取得が義務化されることになりました。会社員にとって、これまで以上に有休を取得しやすい環境になりますが、東京での平日の有給に「非日常」を味わうことのできるイベントが、江東区の横十間川親水公園で開かれています。それは、どういったイベントかというと……

江東区が作成した「和船乗船体験」のチラシ(画像:江東区土木部河川公園課工務係)

「和船乗船体験」です! 和船とは、櫓(ろ)などで進む、スギやヒノキでできた日本固有の木造船のことで、江戸時代に国内の商品流通手段として使われていました。

 都心から近い場所で、そんな和船を体験できるなんて素晴らしい。しかも無料です。さっそく体験してきました。

 イベント当日の2018年9月5日(水)。前日の台風21号襲来の影響で都内はトラブル続きでしたが、乗船体験を実施している「和船友の会」に電話したところ、「開催する」とのこと。午前10時すぎに最寄りの東陽町駅に到着。改札を抜けて外に出ます。和船の乗船場は、東陽町駅から約1.5km、横十間川親水公園のなかにあります。

東陽町駅から和船の乗船場までの道のり(国土地理院の空中写真をもとにULM編集部作成)

 永代通りを東に向かい、東陽四丁目交差点を左折し北へ向かいます。通りの突き当りを右に曲がって、「水車のある公園」から葛西橋通りの下をくぐり、乗船場がある横十間川親水公園に到着します。乗船場は公園内の「海砂橋」を越えたところに。なお、乗船は「海砂橋」と南側にある「千砂橋」をくぐって往復する形で行われます。

公園の案内板。乗船体験は赤枠の箇所で行われる(2018年9月5日、國吉真樹撮影の画像を加工)

「海砂橋」の上から北方向を見ると、2艘の和船と男性たちの姿が視界に入ってきました。マンションや企業ビルに周囲を囲まれるなか、この場所だけが異空間に見えます。

「海砂橋」の上から見た乗船場の様子(2018年9月5日、國吉真樹撮影)

 午前10:30過ぎにもかかわらず、乗船場は「和船友の会」会員たちで、にぎわっています。

乗船場の様子。会員たちと来場者で終始にぎやかだった(2018年9月5日、國吉真樹撮影)

 聞けば2時間前から準備をしているとのこと。「和船友の会」事務局長の内藤政昭さん(73歳)に今回の乗船体験についてのお話を聞きました。

「水彩の江東」とプリントされたシャツが印象的な内藤さん。2014年春に会へ参加。2016年から事務局長を務めている(2018年9月5日、國吉真樹撮影)

 短髪にねじり鉢巻き、いかにも江戸っ子な風情です。1995(平成7)年、江東区の主導のもと、元漁師や船大工など約30人で設立された「和船友の会」。内藤さんも、もともとはそのような仕事に就いていたのでしょうか?

「私の仕事? 私は元証券マンだよ。営業とか財務とかに関わってたよ。転勤で全国を回ったけど、東京での勤務が一番長かったねえ」

 しょ、証券マン? 江戸情緒から現実に引き戻された気分に。

「ここにいる人のほとんどは、一般企業の元会社員ですよ。まぁ説明するから、そこのベンチに座って」と内藤さん。

 内藤さんに言われるがまま、場内のベンチへ移動します。

ベンチに座って、「和船友の会」について説明する内藤さん。名古屋市の港町で幼少期を過ごし、水辺には親しみがあったという。大学時代から60代まで、ディンギーという小型ヨットが趣味だった(2018年9月5日、國吉真樹撮影)

 さっそく、平日の有給休暇に「非日常」を体験するという取材目的を伝えます。

「和船の運行日は3月~7月20日、9月~11月が毎週水曜日と第2・4日曜日。7月21日~8月、12月~2月は毎週日曜日。だから平日に楽しむとなると、3月~7月20日、9月~11月ということになるね。

 乗船の予約はいりません。基本はアポなしで大丈夫。でも10人ぐらいの団体で来る場合は予約して下さい。当日出す船の数や人員を調整しないといけないもんで」

 内藤さんによると、運行日には平均20人ぐらいの会員が乗船場にスタンバイしているそうですが、にぎわっているように見えたこの日の人数は「少な目」とのことです。

桟橋の入口付近に賭けられた幕(2018年9月5日、國吉真樹撮影)

「普段は乗船体験と櫓漕ぎ体験の2本柱でやっているんだけど、今日は台風明けで風が強いから乗船体験だけ。船というのは、風の影響を受けやすいんです」と内藤さん。

 もともと「和船友の会」は1995年当時に失われつつあった和船を動態保存するために江東区の呼びかけで創設された団体で、乗船体験などはあくまでも活動の一部という位置づけ。ほかにも、操船技術の訓練や、船体の維持管理などを行っています。

船の種類は4種類、銅板の錆び加減が「粋」の証

 乗船体験では、いったいどのような和船に乗れるのでしょうか?

「網船、荷足船、伝馬船、猪牙舟の4種類、7隻の船に乗ることができます。その日の来場数を予想して、出す船の数を調整するので、〇〇の船に乗りたい、といったリクエストには応えられません」(内藤さん)

乗船体験で乗ることのできる和船の一例(画像:和船友の会)

 網船は投網などの漁に使用される船、荷足船は荷物や人を運ぶ多用途船、伝馬船は大型船で運んできた荷物を小分けして陸に運ぶ横持ち船、猪牙舟は小型で人を運ぶタクシーのような船……というように種類によって用途が分かれています。

「じゃあ、次は江戸和船の特徴について説明するよ」と内藤さん。桟橋に泊められた網船の「みやこどり」を例に教えてくれました。

「あの船の両側面を見て。四角い緑色のプレートみたいなものが貼られているでしょう。あれは銅板で、江戸和船の特徴なんです」

側面に銅板が貼られた網船「みやこどり」(2018年9月5日、國吉真樹撮影)

 内藤さんは続けます。

「銅板は初め赤茶色なんだけど、1年ぐらいかけて少しづつ錆びて緑色になるんだ。専門用語では緑青(ろくしょう)というの。この錆び加減が味わい深くて、江戸の『粋(いき)』って言われているんです。6~8年に1回ぐらい張り替えます。

 あの銅板をはがすと、木のフタがしてあって、その下にくぎの穴があるんだ。船を作る途中の跡だね。それを銅の板でふさいで見た目をよくしているの。これが心意気だね」

 銅板は船の両側面のほかにも、船内部や船首などにもほどこされています。

「江戸時代の人は銅板で船を飾りたてることで『この船はいい船だろ、かっこいいだろ』と見栄を張っていたわけです」(内藤さん)

船内部や船首などにも銅板が貼られた網船「みやこどり」(2018年9月5日、國吉真樹撮影)

技ありの操船術を間近に見られる

「まぁ、なにはともあれ、乗ってみてよ」

 内藤さんの言葉に誘われて、いよいよ和船の乗船体験へ。乗船時はライフジャケットの着用が必須。これを身に着けて、いざ桟橋に向かいます。

 今回乗る船は「かるがも」。建造1960(昭和35)年、長さは9.25m、「みやこどり」と同じ網船です。船頭を務めるのは根本明洋さん(74歳)と本橋正男さん(69歳)です。

船首に座る根本さん。奥に置かれているのは櫂(かい)(2018年9月5日、國吉真樹撮影)

船尾で櫓をこぐ本橋さん。「和船友の会」に参加して、今年で12年目だという(2018年9月5日、國吉真樹撮影)

「もやい」と呼ばれる、船をつなぎ止めるための綱を外して、「かるがも」はゆっくりと横十間川を南下し始めます。

 櫓漕ぎで揺れる船体に、強い向かい風が加わり、乗船初心者にとってスリリングな状況に。ひとつ目の橋「海砂橋」をくぐる寸前、船首に座っていた根本さんが櫂(かい)を片手に持って急に立ち上がりました。

「今、風が強いでしょう。だから船をしっかりコントロールをしなきゃいけない。そんなときに使うのがこの櫂。これはハンドルやブレーキ、エンジンの役割を担っているんだ。船首を見て。スタート時点と比べて少し右に向き始めたよね。だからこの櫂で元に戻してあげるんだ。これを『櫂を入れる』というの」

 そう言って川のなかに櫂を入れて動かしながら、進行方向を調整する根本さん。不安定な船上でも体のバランスを崩しません。

根本さんが櫂を入れて、船のコントロールを行う様子(2018年9月5日、國吉真樹撮影)

 照りつける太陽や吹き付ける向かい風とは対照的に、川面の表情は実に穏やか。ここが都心であることを一瞬忘れます。

 あっという間に、遠くに見えた「千砂橋」が目の前に近づいてきました。

「この橋を抜けたら折り返しまーす」と根本さん。

折り返し点の「千砂橋」付近の様子(2018年9月5日、國吉真樹撮影)

「千砂橋」をくぐり終えた場所で方向転換です。進行を止めた状態で、船尾に立った本橋さんが櫓を巧みに操り、船体をゆっくりと180度回転させます。

櫓を使って船体を回転させる様子。背景の建物の位置に注目(2018年9月5日、國吉真樹撮影)

「ここから戻りますね」と根本さん。船は再び進み始めます。

 風向きは、向かい風から追い風へ。櫓を漕ぐ本橋さんはきっと楽になることでしょう。

「いやいや、追い風の方が船をコントロールするのは難しいんですよ」

 そう話す本橋さんの顔つきは行きよりも険しい表情に。船を漕ぐ手つきにも力が入っているように見えます。

「千砂橋」をくぐり、「海砂橋」との距離が半分ぐらいまでに差し掛かったころ、本橋さんが突然こう言いました。

「ひとつ、端唄でも披露しましょうか?」

 端唄とは江戸時代に発達した歌曲の一種のこと。聞けば、盛り上がったタイミングを見て、小唄や都都逸(どどいつ)をときどき披露するそうです。

船上で端唄を披露する本橋さん(2018年9月5日、國吉真樹撮影)

「上手下手は別にして(笑)、歌うとお客さんが喜んでくれるんですよ。私は今69歳だけど、これを85歳ぐらいまでは続けたいですねえ。櫓漕ぎも唄もまだまだ身にしみ込んでいませんから」

 そう笑みを浮かべながら話す本橋さん。先ほどの厳しい表情からにこやかな表情に。

 船は「海砂橋」をくぐり、小さな島をUターンして桟橋に戻ってきました。正味20分の江戸情緒はここで終了。あっという間の体験でした。

桟橋で待っていた会員に、もやいを渡す根本さん(2018年9月5日、國吉真樹撮影)
櫓の側の受け入れ凹部に、船の後部にある突起物を差し込んで支点とする(2018年9月5日、國吉真樹撮影)

 乗り終わった船は再びもやいで固定され、櫓や櫂も船の上に置かれます。

川には、理屈で語れない開放感や癒しが

「実際に乗ってみてどうだった?」

 乗船の感想を聞きにきた内藤さんの周りは、会員の皆さんの笑顔であふれています。

乗船場を訪れた女性に船の仕組みを教える会員(2018年9月5日、國吉真樹撮影)
乗船場の受付はいつも笑顔であふれている(2018年9月5日、國吉真樹撮影)

「楽しかったでしょ。船に自分が乗るのも楽しいけど、船に人が乗っている光景を周りから見るのもまた楽しいんですよ。いいでしょう、水辺のある光景って」

 内藤さんは続けます。

「この川は海につながっているから、川を感じることは海を感じること、自然と一体になるってこと。そこには理屈では語れない開放感や爽快感、癒しがあるんです。スマートフォンのバーチャルな世界やデスクワークばかりじゃ疲れちゃうでしょ。たまにはこういうところに遊びに来てくださいよ」

内藤さんは「水運の歴史を本だけではなく、体で感じてみてほしい」とも(2018年9月5日、國吉真樹撮影)

 乗船体験にはどのような人たちが来るのでしょうか?

「男女半々かな。最近は小さい子どもを連れてくる女性が増えているね。女性全体の4割ぐらいかな。散歩がてらここを覗いて乗っていくという人もいる。あとはなんといっても、インバウンド。この3年間で急激に増えましたよ。会のホームページは英語版もあるからね。中国(台湾含む)、インドネシア、オーストラリア、アメリカ、イギリス…本当にいろいろな国の人たちが来るよ。

 乗った人のほとんどは『珍しい体験ができた』『和を感じられた』『風情があった』というようなことを言ってくれる。なかには『船頭さんがフレンドリーで良かった』『船頭さんの唄が良かった』という人もいるね」(内藤さん)

 都心からわずかの距離で味わえる江戸文化とその開放感。普段仕事に追われている人にこそ、体験してみたほうが良いのかもしれませんね。

●和船乗船体験
・住所:東京都江東区海辺8-4先
・交通アクセス:東西線東陽町駅から徒歩20分。都営バス東22(錦糸町駅~東陽町・東京駅北口)「千田」から徒歩7分、門21(東大島駅~門前仲町)「東陽七丁目」から徒歩15分など
・利用料:無料
・運行日:3月~7月20日、9月~11月(毎週水曜日、第2・4日曜日)、7月21日~8月、12月~2月(毎週日曜日)
※乗船の受付時間は、10:00から14:15まで。

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