“脱日常”の特製ビーフカレー「椿屋珈琲店本館」 | 老舗レトロ喫茶の名物探訪(4)

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銀座にある椿屋珈琲店本館は、大正時代をイメージした意匠が独特です。加えて、サイフォン式の自家焙煎コーヒー、椿屋特製ビーフカレーなど、高級感と自家製にこだわった看板メニューが「脱日常」に誘ってくれます。

目次

昭和のモダニズム建築に足を踏み入れ、大正時代にワープ

 銀座7丁目の椿通りと金春(こんぱる)通りが交差する角にある第一菅原ビル。2階と3階部分に茶褐色の外壁タイル、ひさしの下に花飾台のついた窓が並ぶ外観が独特です。このビルは1934(昭和9)年に建てられた、当時としてはモダンな建物で、金春通りに面した方の隅には、3階から5階までつながる縦長の窓とレトロな丸窓があります。

 今でこそ普通である規則的に並んだ窓の配置も、モダニズム建築の特徴。同ビルは、昭和初期における日本建築の近代化を今に伝える貴重な建物といえます。

昭和初期に建設された第一菅原ビル。右側の写真がスクラッチタイルに縦長の窓と丸窓(2018年9月10日、宮崎佳代子撮影)。

 この建物の2階と3階部分に椿屋珈琲店本館があります。同店は1996(平成8)年に東和産業がオープンしましたが、元をたどると同社は1974(昭和49)年に銀座中央通りに「銀座東和」としてコーヒー専門店を開業。1979(昭和54)年に第一菅原ビルに移り、椿屋珈琲店の前身となる高級喫茶店「七番館」をオープンした経緯があります。その後、「椿屋珈琲店」に名称変更して全面改装オープン。2018年9月現在、43店舗を1都3県に展開しています。

 本館入り口への階段はシックなダークオーク色で、壁面の赤煉瓦とのコンビが高級感とレトロ感を演出しています。大正時代をコンセプトとする内装も同基調。格子窓にはめられた擦りガラスやステンドグラス、床にまばらにはめられたデザインタイル、照明器具なども「大正ロマン」を感じさせられる意匠が凝らされています。

大正時代のアール・ヌーボーをモチーフとした2階の内装(2018年9月6日、宮崎佳代子撮影)。
3階への階段横の壁には洋画家、東郷青児の絵が飾られている(2018年9月6日、宮崎佳代子撮影)。

カレーだけでも美味しく食べられる、名物ビーフカレー

 独特の内装に加えて同店の名物に挙げられるのが、白いカチューシャを着けた女性スタッフの服装に、昔懐かしいサイフォン式コーヒー、そして椿屋特製ビーフカレーです。

 女性スタッフが着用している白エプロンとカチューシャは椿屋になってから導入され、大正時代のメイド服をイメージしています。椿屋珈琲店初代店長で、銀座東和の時代から勤めている浜永さん(現ロースター長)によると、サイフォン式コーヒーは昭和50年代前後にブームであったことから、銀座東和の創業時より取り入れられ、今に至るそうです。

女性スタッフの制服(2018年9月6日、宮崎佳代子撮影)。
コーヒーはサイフォンのフラスコに入れて運ばれてくる。椿屋オリジナルブレンドは1000円(税込、以下同)(2018年9月6日、宮崎佳代子撮影)。

 現在、同店を運営している東和フードサービス(東和産業から分社)は、サイフォン式コーヒーの長所について、コーヒー豆の味と特性を出しやすいこと、味のブレを抑えられることを挙げます。また、椿屋珈琲店のコンセプトとする「脱日常感」に通じる演出でもあるとのこと。

 ここでいう脱日常感とは、銀座の喧騒や日常の忙しさから一時的に脱して、家では味わえない体験を味わってもらうものと話します。そのために、前述の制服を着た女性スタッフがサイフォンのフラスコにコーヒーを入れたまま運んできて、客の前で注ぐサービスを行っています。
 
 また、味へのこだわりとして、コーヒー豆の自家焙煎を行っているのも特長のひとつです。焙煎してから最も美味しくなるという5日目のコーヒー豆を使用しています。

 特製ビーフカレーは、100年以上続く洋食レストランの名店で料理長を務めた人が、皇室に献上したレシピを元に作ったカレーに改良を重ねて現在の味に至るそうです。
 
 その美味しさの秘訣は、11種類のスパイスを使用し、カレー粉も数種類ブレンドするなどのこだわりに加え、今なお研究し続けて進化を遂げていることにもあるといいます。肉も口の中で優しくほどけていくほど柔らかく、程よい甘みに旨みたっぷり。ビーフシチュー感覚で、ライスがなくても美味しく食べることができます。

椿屋特製ビーフカレー 1350円。飲み物とサラダの付いたランチメニューは1560円とお得。飲み物(コーヒーか紅茶)とセットで1800円(2018年9月6日、宮崎佳代子撮影)。
たっぷり玉ねぎをよく炒め、大釜で煮込んでいるというトロトロのビーフカレー(2018年9月6日、宮崎佳代子撮影)。

 このカレーに合わせるのが、ターメリックライス。白米より見た目が華やかになり、カレーとの味わいのコントラストも穏やかに感じられます。カレーはライオン顔の取っ手がついた陶器にレードル(取り分けるスプーン)を添えて出され、カレーライスながらちょっとしたご馳走に見えます。

職人による手作りがウリの、ケーキ各種

 椿屋珈琲店では、コーヒー豆以外にも「自家製」のものがあります。そのひとつがケーキ。深川にある自社工場で職人が手作りしていて、コーヒーに合うように甘さ控えめで軽い口当たりにしているそうです。
 
 人気はモンブランや紅茶シフォンケーキで、季節限定のケーキを楽しみに、問い合わせをしてくる人も多いとか。また、パスタも自家製生麺を使用しています。

渋皮のモンブラン 780円。飲み物とセットで1480円(2018年9月6日、宮崎佳代子撮影)。
北海道 赤肉メロンのショートケーキ 930円は、季節もので期間限定商品(8月中旬〜10月初旬くらいまで)。飲み物とセットで1630円(2018年9月6日、宮崎佳代子撮影)。
紅茶シフォンケーキ 780円。ランチタイムは特製ビーフカレーと飲み物とセットで 1800円(2018年9月6日、宮崎佳代子撮影)。

 もうひとつ脱日常感の演出として、食器は全てロイヤルコペンハーゲン(主にブルーフルーテッドシリーズ)を使用しています。同社によると、客の平均滞在時間は90分だとか。高級感と大正ロマン、そして自家製の美味しさに包まれた脱日常の居心地のよさは、コーヒー1杯1000円が相場の「銀座価格」に匹敵する価値があると思えるのではないでしょうか。

【銀座七丁目花椿通り 椿屋珈琲店
東京都中央区銀座7-7-11 菅原電気ビル2・3F
地下鉄各線「銀座駅」A2出口から徒歩約5分 JR「新橋駅」銀座口から徒歩約5分
月曜〜金曜 10時〜翌04時30分、土曜・日曜・祝日 11時〜23時 ランチタイムは10時(土日祝は11時)〜14時 

※14時を過ぎてもランチタイム価格で提供する場合もあります。

※価格は全て2018年10月時点のものです。

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