さまざまな課題を乗り越えて経営改善に成功した中小企業同士がチームを組み、社員と一丸となって日本文化の復興に携わったり、耕作放棄地を再生したりと、“日本を元気にする”活動に取り組んでいます。それが、今年の「社会文化功労賞」に選ばれた「豈プロジェクト」。その活動とは一体どのようなものでしょうか?
中小企業が会社のあり方を変え、社会貢献活動を実践
高校、大学を出て就職したのはいいけれど、お金を稼ぐため、売上を伸ばすための毎日で、何のために働いているのか分からなくなってしまっている。日本にはそうした中小企業の経営者や社員たちが未だ多くを占めているのが実情です。
ところが、営業を頑張らなくても過去最高の利益を生み出し、その一部を地方の農業の復興や、和太鼓などの伝統芸能の実践、若手のリーダー育成といった社会貢献に還元して互いに発展している中小企業の活動体があります。
それが、経営者の教育機関「ワールドユーアカデミー」で学んだ中小企業とそのサポートメンバーによる「豈(やまと)プロジェクト」です。
その「豈プロジェクト」が、今年の「社会文化功労賞」を受賞しました。
社会文化功労賞は、昭和46年に旧皇族・東久邇宮稔彦殿下のご発意で創設された「日本文化振興会」の顕彰制度です。

日本国内には別に叙勲制度があり、その叙勲の対象となるのは大学の名誉教授や国家公務員がほとんどですが、社会文化功労賞は学閥や派閥に属さず、高い理想のもと、独自に社会貢献している個人や企業などに贈られるのが特徴です。
日本文化振興会・常任理事の徳富静子さんは、その受賞理由を次のように語っています。
「豈プロジェクトを顕彰させていただいたのは、農業・教育・文化・経済という4つの柱を掲げて、それこそ日本の未来を変えるような活動をされていることです。こと、農業に関しては、現在、農家の数がどんどん減ってしまっているなか、中小企業の皆さんで耕作放棄地を、まして自然農法で再生させるという活動をなさっている。それと、仲村恵子代表のご足跡ですよね。発想がとても柔軟で素晴らしいと思いました」
経営者も社員も顧客も幸せになる「志経営」とは?

豈プロジェクトを主宰するのは、株式会社ワールドユーアカデミー代表取締役社長の仲村恵子さん。ワールドユーアカデミーは、仕事も人生も共により良くしたいと願う中小企業の経営者に対して、「志経営」に基づいたコンサルティングを行っている教育機関です。
例えば、株式会社山崎文栄堂の代表取締役社長、山崎登さんは創業103年になる企業の3代目。社長就任以降、会社繁栄のために売上を上げようと、必死に開拓営業に力を入れ、売上件数を伸ばしてきました。ところが、その営業攻勢の結果、社長自身も社員も疲弊し、離職率は80%に。いわゆるブラック企業の状態に陥っていました。
その山崎社長が13年前に出会ったのがワールドユーアカデミーの「志経営」という考え方です。
「目の前の数字ばかり追い求めて『お金をください』と営業していては、お客さまに嫌われるだけ。社員も疲弊し、社長からも離れていきます。そうではなく、人のために役立つことをして喜ばれる会社になろうよ、と。『おかげさま』の精神のもと、売り手・買い手・社会の全てをよくするために、大きな志を持って行動するのが『志経営』です」(仲村代表)
当初は、「会社を潰しちゃいけないと思うあまり、不安で、人生真っ暗の中を走り続けてきた」と語る山崎社長ですが、「今の営業を止めて、お客さまの役に立つことをはじめよう」という仲村代表のアドバイスのもと、まずコミュニケーションや人間関係の改善を実践。会社そのもののあり方を変え、今では顧客から選ばれる会社になったといいます。
山崎文栄堂は、売上も過去最高益に達し、現在は「ヒーローズクラブ」のメンバーとしても活躍しています。
ヒーローズクラブとは、ワールドユーアカデミーで学んだ中小企業の経営者たちによる組織で、今回、社会文化功労賞を受賞した「豈プロジェクト」の運営主体でもあります。
「昨今は、子どもの自殺や引きこもりなどが課題になっています。子どもたちの未来が大人なので、まず大人が子どもたちの希望になるように、もしヒーローならどのような選択をするのか、みんなで問いかけて行動しています。『どうせ無理』を超えて子どもたちの希望になることを目指し、ヒーローズクラブと名付けました」
それが仲村代表の組織名に込めた思いです。
「仲間と活動できることは、本当に大きいです。社長って、お互いに距離を置いて付き合うことが多いですよね。ここではお互い本音で経営について議論したり、一緒に山を登ったり、農業のお手伝いをしたり、和太鼓を叩いて全国回ったり…周りからは『社長、変わったよねぇ?』って驚かれますよ(笑) 社員も一緒に参加するので、会社の雰囲気も働き方もガラッと変わりました」(山崎社長)
小さな企業が力を結集し、米農家やお茶農家を復興

豈プロジェクトの活動の中でも高く評価されているのが、先述の農業復興です。
2021年に栃木県塩谷町でスタートした「神宝米」プロジェクトは、「半農半X」を本格的に推進するもの。昨今は後継者不足などで廃業する農家も増えていますが、豈プロジェクトがお米を買い取ることで、農家は古くから伝わる自然農法を安心して継続。さらには、より多くの顧客に安全でおいしいお米を届けていくことを目指す取り組みです。
「買い取ったお米は、百貨店などに流通させるほか、参加企業の給食として社員に出したり、お中元、お歳暮としても活用したりさせていただいています。いま、日本の自給率は38%程度で、多くを輸入に頼っている現状ですが、こうして集まっている中小企業だけでも自給率100%をめざそうよ、と。この活動は反響も大きいですね」(仲村代表)
2023年3月には、屋久島に4000坪の耕作放棄地を持つ農家から相談を受け、名産の有機緑茶づくりにチャレンジ。それに賛同した歌舞伎役者の市川九團次さんが、緑茶の香りを生かしたクラフトジンの開発を行うなど、「農業×中小企業」の今までにない取り組みは、さらなる広がりを見せています。
また、豈プロジェクトが文化活動として力を入れているのが、経営者と社員が一丸となって和太鼓を叩いたりダンスを踊ったりするような「日本の文化と祭りの復興」です。
その公演は、日光東照宮や出雲大社の奉納太鼓にも参加するほど本格的なもの。2023年12月12日には東京・文京シビックホールで開催される「豈プロジェクト 東京公演」 も決定しています。
日本人の得意とする「結の精神」が、働き方を変える!

今回の文化功労賞の受賞にあたって、豈プロジェクトを運営するヒーローズクラブのメンバーからは次のような声も寄せられました。
「名誉ある賞をいただいたことを本当に心からうれしく、誇りに思います。今までは自分のことばかり考えて仕事していましたが、豈プロジェクトに携わることで、仲間のためや、人のため、社会のために何ができるのかを考えられるようになりました。同じ志を持った仲間たちのご縁がどんどん広がっていくことは本当にうれしいですね」(銀座 鮨 おじま 代表・尾嶋琢広さん)
「中小企業が日本や社会という大きなフィールドに貢献できることにやりがいを感じています。中小企業が力を合わせ、日本人が本来持つ和の心や結の精神で、仲間と一緒に幸せになっていく。豈魂で中小企業が力を合わせれば、大企業でもできなかった新しい世界観を社会に広げていけると確信しています。豈プロジェクトが、社会文化功労賞を受賞し、うれしい気持ちでいっぱいです」(株式会社メディアラボ 代表取締役・長島睦さん)
人的リソースが限られている中小企業ですが、優秀な人材は必ず1人、2人いるもの。例えば、経理が得意な人であれば、その人が自社だけでなくヒーローズクラブに参画する他の会社に出向したり、営業が得意な人がいれば他社の分もヘルプしたりする。そのように、有能なリソースをシェアすることができれば、他の企業においても上手くいく方法を伝えることができ、さらには同じ労働時間の中でさまざまな勉強や社会貢献に時間を費やすことができるようになります。
仲村代表は、これまで培ってきた成果を次のように語ります。
「私たちのやっていることは、日本人が最も得意な『助け合い』による『働き方改革』なんですよ。中小企業でも団結して、空いた時間を豊かに生き、未来を変えることが可能です。私たちが今回いただいた社会文化功労賞や、先日いただいたソトコト・ウェルビーイングアワードといった賞は、その可能性を後押ししてくれるものだと思っています」
豈プロジェクトのホームページでは、その活動概要について動画を通じて紹介しています。興味を持った方は、講演会やイベントに参加してみてはいかがでしょうか。
■豈(やまと)プロジェクト
https://yamato.world-u.com
豈プロジェクト 東京公演
開催日時:2023年12月12日(火)14時~17時30分
開催会場:文京シビックホール
ゲスト:林 千勝 氏(近現代史研究家・ノンフィクション作家)、華頂 博一 氏(旧皇族 華頂宮 当主)
■パネルディスカッション
日本の現状と未来について「新時代のリーダーを育てる教育について」
<登壇ゲスト>
衆議院議員 下村 博文 氏
参議院議員 神谷 宗幣 氏
日本中小企業経営審議会相談役 平山 秀善 氏
株式会社ソーシャルマーケティング研究所 代表取締役 山崎 伸治 氏
ファシリテーター:放送作家 安達 元一 氏