2017年頃からブームが一気に加速していったレモンサワー。昔からの居酒屋の定番メニューですが、2018年より一般消費者向けにも次々に新商品が発売されています。なぜ、今これだけのブームになっているのでしょうか。その背景と、レモンサワーの最前線に迫ります。
直近1年でレモンサワーを飲んだ人の調査、東京で約9割
レモンサワーブームが加速しています。日本蒸留酒酒造組合(中央区日本橋)が2019年2月に発表した調査によると(回答者数1万7054人)、「直近1年間でレモンサワー(缶酎ハイを含まない)を飲んだことがある人」は全体で79.8%と2018年より5.7ポイント上昇。都道府県別では東京都が1位で、87%(2018年は82.9%)でした。
同組合は、「ここ数年、東京の居酒屋を中心にブームとなっていましたが、それが東北、北海道へと北上し、さらに西日本にも拡がり、全国的なものになってきています」と話します。
同調査では、「以前に比べてレモンサワー(同)を飲む回数が増えた」と回答した人は36.8%で2018年より8ポイント上昇。酒離れが進んでいるといわれる若い年代ほど「飲む回数が増えた」と回答した割合が高く、20代男性が50%と最多となっています。
レモンサワーは昭和の頃より既に居酒屋の定番メニューであった飲み物です。それが今になってブレイクしている要因は何なのでしょうか。ホットペッパーグルメ外食総研・上席研究員の有木さんは、「ブームは、20代の若者たちがけん引した」と話します。
「かつて横丁といえば、おじさんたちの盛り場でしたが、レトロブームで数年前から若者たちに人気となりました。その定番メニューであったレモンサワーのおいしさ、料理との相性の良さを知り、低糖質や、低価格も若者たちを引きつける要因になりました」(有木さん)
また、特に若い「男性」から支持を得ていることについて、有木さんは、ダンス&ボーカルグループのEXILEがレモンサワー愛飲者であることを兼ねてから口にしていることで、「かっこいい男の飲み物」とのイメージが広まったことを指摘します。
こうしたレモンサワー需要の高まりに、独自性やこだわりを打ち出す居酒屋も増え、ブームは幅広い年齢層に拡大。SNSでの拡散、近年のシュワシュワっとした飲み心地の「泡」人気、レモンのスッキリ感がヒートアイランド現象による、うだるような夏の暑さにピッタリという、昭和の頃になかった要因もブームの追い風となったといえるでしょう。
さらに、人気の相乗効果となったのが、居酒屋でのブームに目をつけ、大手酒造メーカーが一般消費者向けに開発したレモンサワー関連商品の存在です。
「レモンサワーの素」発案者の嬉しい誤算とは?
2018年2月27日(火)にサントリーが原液タイプの「こだわり酒場 レモンサワーの素」を発売し、同年3月20日(火)には宝酒造が缶チューハイ、寶「極上レモンサワー 瀬戸内レモン」と「同 丸おろしレモン」を発売しました。これらはヒット商品となり、レモンサワーは「家飲み」にも浸透します。
レモンサワーの人気加速の一躍を担った「こだわり酒場のレモンサワーの素」は、炭酸で割って好みの味に調合できる原液タイプです。商品開発の経緯について、発案者であるサントリースピリッツ(港区台場)の永尾真紀さんに話を聞きました。
永尾さんは入社歴まだ数年の20代。同じ世代に向けて、同製品のニーズを睨んだのかと思いきや、意外なことに「ターゲットは40〜50代の男性でした」との答え。
「外で飲み歩くことがそう自由にできない年代の男性たちが、お店で飲む感覚で家で楽しめるようなお酒を考えていた中で、居酒屋で伸張しているレモンサワーに目が向きました。ハイボールとは違い、家でおいしく作るのは意外と難しく、また手間もかかるお酒。今は炭酸水を常備している家も多いことから、簡単で、自分好みに調整できる原液タイプの当商品に思い至りました」(永尾さん)
商品化に向けての味の設計でこだわったのは、「しっかりとレモンの味を楽しめる」「甘くない」「料理に合わせやすい」の3点。当時、居酒屋メニューによく見られた生搾りのレモンサワーはレモン味が薄いものが多く、シロップを入れたものは甘くて食事に合わせにくいものが多い。これらのことから、「誰もが食中に心地よく飲める、外れのないレモンサワー」にこの3つが必要と考えたそうです。
同製品は原料酒にレモンを果実丸ごと漬け込み、それを複数種類のレモンに合う焼酎とブレンド。心地よく飲める「黄金比率」の模索に試行錯誤を繰り返したといいます。実際に飲んでみると、確かに甘すぎず酸っぱすぎず、レモンの香りと味わいをしっかりと楽しめながら、料理を邪魔しない計算高さが印象的な味わいでした。
販売が開始されると、狙い通り食事との合わせやすさが好評だったのに加えて、梅沢富美男さんを起用したCMが幅広い年代に受け、若者たちからも大人気の嬉しい誤算。サントリースピリッツは、「こだわり酒場 レモンサワーの素」について、2019年の販売計画45万ケース(1ケース 500ml×12本換算)を、60万ケースに上方修正を発表。2019年3月に新発売した、缶入りRTD(そのまま飲める飲料)商品「こだわり酒場のレモンサワー」についても、2019年販売計画を210万ケース(1ケース 250ml×24本換算)から800万ケースに上方修正しました。さらに、業務用「こだわり酒場 レモンサワーの素」も、取扱料飲店数の目標3万店を上方修正し、2019年末までに5万店を目指すと発表しています。
「でもまだまだ、です。一過性のブームで終わらない商品かを見届けるまでは」と一歩先を見据える永尾さん。生みの親ならではの言葉が印象的でした。
全国的レモンサワーブームはフェスの影響も?
一方、宝酒造のRTD商品、寶「極上レモンサワー」は、現在8種類ものフレーバーを発売中。宝酒造によると、最も売れているのが前述の「丸おろしレモン」で、販売数は右肩上がりのヒット商品とのことです。
「丸おろしレモン」は、レモンを丸ごとすりおろしたかのような複雑かつ贅沢な果実味を特長とし、11種類の樽貯蔵熟成酒とレモンの香気成分を含んだレモンサワー用焼酎をブレンドしています。味の設計について同社に聞いたところ、レモンサワーにこだわりを持つ繁盛店を調査し、それらを参考にしたそうです。
「丸おろしレモン」を飲んでみて印象深かったのは、レモンの苦味や酸味などのバランスの良さに加え、お酒のクオリティー高さと旨み。宝酒造は2016年に既に業務用にレモンサワー用焼酎を発売してしており、甲類焼酎と果汁を組み合わせた商品を従前より数多く開発してきました。「タカラcanチューハイ レモン」に至っては35年続くロングセラーです。寶「極上レモンサワー」は、そんな焼酎メーカーとしての実績とこだわりを実感する商品でした。
前出の有木さんは全国的なレモンサワーブームに、宝酒造も出店した2017年初開催の大型飲食イベント「レモンサワーフェスティバル」の役割も大きいと話します。関係者によると、メディアに多数取り上げられたそうで、翌年、同フェスは全国8か所に及んで開催されました。
「近年、肉フェスやビアフェスなど、何らかの食品がブレイクするのにフェスの影響が大きいというのが傾向としてあります。これはSNSでの拡散や、消費動向がモノからコトへ移っていることが関係すると考えられます」(有木さん)
イベントでは元祖系(カットレモンを1、2個入れたもの)から進化系(見た目や味わいに趣向を凝らしたもの)までさまざまなレモンサワーが提供され、2017年、18年と合わせて累計7万人以上を動員するという盛況ぶり。宝酒造も10種類の焼酎を用いて100通りのレモンサワーを提供し、イベントを盛り上げました。
レモンサワー最前線、年齢が高くなるほど1杯目から注文
サントリーや宝酒造に続いて他社も続々とレモンサワー関連商品を新発売し、コカ・コーラまでもが同社史上初のアルコール飲料、缶チューハイ「檸檬(れもん)堂」を九州限定で2018年5月から発売。さらに、同製品を2019年の秋ごろから全国展開することを発表しています。
この夏に発売されたレモンサワーでは、小売POSデータの新商品売れ筋ランキング(KSP-POS)をみると、8月に発売された宝酒造の寶「極上レモンサワー 早摘みグリーンレモン」がランキング上位に挙がっています。
サッポロの夏限定商品「サッポロ キレートレモンサワー 塩レモン」も好調で、同社広報担当者は「ビタミンCやクエン酸といった機能価値で独自のポジショニングを獲得しているのに加えて、キレートレモンブランドならではの果汁感の濃さに夏にぴったりの『塩』を加えたことで、より飲みやすい味覚が好評を得ています」と話します。レモンサワーの塩フレーバーは居酒屋でも人気アイテム。RTD商品では、キリンが10月に塩フレーバーの新商品「キリン 氷結(R)ストロング 塩レモン」を期間限定で発売予定です。
大手各社のレモンサワー商品を飲み比べてみましたが、酸っぱいもの、甘めのもの、レモンの産地にこだわったもの、機能系と、各社それぞれに特徴があり、異なる味わいでした。飲み飽きにくい上に、味わいにバラエティーを持たせやすい商材であるだけにブームはまだまだ続くと予想され、今後一層の「進化」も注目されます。
前述の日本蒸留酒酒造組合の調査で、「レモンサワーを飲むタイミングは1杯目から」という人が36.7%と昨年より3.9ポイント上昇していました。年齢が上がるほどレモンサワーを1杯目から飲む人の割合が高くなっていますが、進化系を好む傾向にある若い世代が「とりビー(とりあえずビール)」から「とりあえずレモンサワー」になる時代がやって来るのも近いかもしれません。