都内の繁華街をぶらりと歩けば、至るところに居酒屋が。お酒好きにはうれしい限りですが、店側にしてみれば、それだけ競争が激しいということ。厳しい時代にも関わらず、客のハートをしっかりと掴んでいる「ベルサイユの豚」。その理由を探りに、池袋店を訪ねました。
あの名作漫画を連想させるユニークなネーミング
ワインを片手に自慢の肉を中心とした各種料理を堪能できる「ベルサイユの豚 池袋店」。オープンしたのは今から10年前のこと。ちょうど肉ブームが広がりをみせ、ワインと肉に特化した“肉バル”が注目され始めていました。
ただ、都内屈指の繁華街である池袋は、あまたの飲食店が乱立する激戦区です。競合する店が多いなか、新しい店が認知され、定着するのは本当に大変なこと。厳しい条件を乗り越え、長年にわたり人気店であり続けるためには、何が必要なのでしょうか。その理由を知るべく、運営するダイヤモンドダイニングの事業部長・小野昌宏さんに話を聞きました。
まずお伺いしたのは、店名のこと。初めて「ベルサイユの豚」と聞けば、誰もが思わずツッコミを入れたくなってしまうはず。一体、なぜこのような名前にしたのでしょうか。
「弊社の代表・松村が考案したものです。考案というか、パッと閃いたようですが(笑)」と小野さん。とはいえ、ただの思いつきではありません。
「もともと、店名はキャッチーなものにする方針でした。一度聞いたり目にしたりすれば、しっかりと記憶に残るものにしたい。数ある店の中から選んでいただくためには、まず名前を覚えてもらうことが大切だと考えています」(小野さん)
「ベルサイユの豚」という名前から連想するのが、かの名作漫画「ベルサイユのばら」。ばらではなく豚!というギャップに苦笑しつつ、気づけば脳裏に刻み込まれているわけです。そして“豚”にしたのも、ちゃんと理由があります。
「その店に行けば、どんな料理が食べられるのか。店名から想像できれば、初めて来店する人の安心感につながるはずです」(小野さん)
そう、「ベルサイユの豚」は、豚肉料理が自慢の肉バル。そして、舞台となるベルサイユのあるフランスは、ワインの国。豚肉×ワインという店のコンセプトが、名前の中にさりげなく込められているのです。
高級ワインもほぼ仕入れ値で飲める魅惑の会員システム
このように「ベルサイユの豚」では、ユニークかつ計算されたネーミングで、客との距離を縮めることに成功しました。でも、それは店に来ていただくための第一歩に過ぎません。実際、客の奪い合いが激しい池袋では、開業後しばらくしても、思うように売上が伸びない時期が続きます。そこでさらなる認知拡大とリピーター獲得のため、次の一手を打ちました。それが、当時の飲食業界をざわつかせたワイン会員システムです。
「入会費をお支払いいただき、会員になってもらいます。一定の条件をクリアすると、ボトルワインをほぼ仕入れ価格で飲むことができる。ワイン好きにはたまらない、お得なシステムです」(小野さん)
会員は、シルバー会員からスタート。ボトルワインを1本注文するごとに、ワインカードが渡されます。ワインカードが10枚たまると、ゴールド会員に昇格。そこからは、ほぼ原価でボトルワインをオーダーすることができるようになるのです。では入会費が高いのでは、と思いきや、わずか200円。最初のハードルの低さも、チャレンジ意欲をかき立てます。
「ワイン会員システムを導入してから、売上が右肩上がりになりました。好評につき、その後姉妹店を2店オープンすることができました」(小野さん)
現在は都内に5店舗ある姉妹店すべてで、ゴールドカードが使用可能。さらに、20回来店するごとに好きなワインを1本無料で飲める特典も。シャンパンなどの高級品でも大丈夫。どうせワインをボトルで飲むならベルサイユの豚で!という気持ちになるのも無理はありません。
ワイン会員システムは、グループ客が増える引き金にもなったそう。思い切った仕掛けが奏功し、常に繁盛している店として知られるようになります。
常連客を満足させる料理への本気度
魅力的な会員システムで、リピーター獲得に成功した「ベルサイユの豚」。リピーターが増えれば増えるほど、店としては客を飽きさせない工夫が必要となります。そのため常に料理を見直し、最良のひと皿を提供する努力も惜しみません。
現在のメニューは、コロナ禍にもかかわらず約1年前にリニューアルしたもの。新たなコンセプトは、厳選銘柄豚×イタリアン。肉バルのよさは維持しつつ、おいしい食事をしたいというニーズにも寄り添います。
創業以来力を入れる豚肉は、美明豚や松阪ポークなどよりすぐりの国産ブランドを4品種セレクト。シンプルなグリルでの食べ方を推すのは、素材に対する自信の現れです。
そして、6種類から選べるパスタも本格的。使用する麺は、創業110余年のパスタメーカーから仕入れる生パスタ。一番人気は濃厚ミートソーススパゲティで、自慢の豚肉を100%使った自家製ソースが麺にたっぷりと絡みます。ボンゴレビアンコヴェルデも具だくさん。お皿を彩るアサリやホタテ、ムール貝はワインのおつまみにも。魚介のうま味が溶け出したスープは、別注のバゲットで余すところなく味わいたくなるおいしさです。
店を知る入り口は、ユニークな名前だったり、魅惑のワイン会員システムだったり。でも、繰り返し通えるのは、常にブラッシュアップされた料理があってこそ。メニューを見れば、ワイン以外のドリンクも幅広く取りそろえています。人気店には、聞けば納得の理由がありました。そんな「ベルサイユの豚」で過ごすおいしいひととき、皆さんもいかがですか。
■ベルサイユの豚 池袋店
住所:東京都豊島区南池袋2-16-8 鈴和ビルB1F
TEL:03-3985-2192
営業時間:17時〜23時
定休日:なし
アクセス:JR・東武東上線・西武池袋線
東京メトロ丸ノ内線・有楽町線・副都心線 池袋駅より徒歩3分