サッポロ生ビール黒ラベル「JRA有馬記念缶」に描かれた迫力満点の馬のイラスト。描いた人に会いに行ってみると、実はいまNFTアートで話題を集めるあの人でした! 本人が語るイラスト誕生秘話と、NFTアートの現在と未来とは!?
缶に描かれた大迫力の馬は誰の作品?
「有馬記念」は、毎年12月末に中山競馬場で行われる競馬界屈指のビッグレース。いまや年の瀬の風物詩としてもおなじみで、年末が近づくと関連グッズなども登場して盛り上がります。とくにサッポロビール(株)から発売されたサッポロ生ビール黒ラベル「JRA有馬記念缶」は、駆け抜ける馬の息遣いさえ聞こえてきそうなイラストが圧巻。そこでサッポロビール(株)に、記念缶とイラストについて問い合わせてみました。
「有馬記念は、中央競馬の一年を締めくくる国民的ドリームレース。そこで競馬ファンを含む多くの方にお楽しみ頂けるよう、有馬記念缶を企画しました。イラストは昨年に続きグラフィックデザイナーの尾花龍一さんという方の作品。イラストの素晴らしさはもちろん、尾花さんご自身が競馬の熱烈なファンだと伺い、親和性を感じています。黒ラベルブランドのシンプルなデザインとマッチする墨絵タッチの世界観が魅力です」(サッポロビール株式会社)
グラフィックデザイナー・尾花龍一。
最近、ニュースなどでその名を聞いた人もいるかもしれません。
そう、尾花さんは競走馬をモチーフにしたNFTアート「RHC(Rampage Horses Club)が人気を集め、YouTuberのヒカルさんやラファエルさんとのコラボでも話題の人物。国内におけるNFTアートの先駆けです。
しかし缶に描かれた墨絵風のイラストと、最新のデジタルアートという幅の広さに、人物像への謎が深まります。ここはアポイントをとって尾花さんの話を聞きに行くしかありません!
直撃の前に、まずはNFTについて少しおさらいしてみましょう。
デジタルコンテンツに革命を起こしたNFT
NFTとは「Non-Fungible Token」の略語で、日本語にすると「非代替性トークン」。かみ砕いて言えば「固有のものである証明があるデジタルデータ」といった意味になります。
この「固有の証明」がデジタルの世界では革新的なことでした。これまでは簡単に、即座にコピーできてしまっていたデジタルコンテンツに、唯一無二の本物の証明がつけられるようになったのです。これにより鑑定書付きの美術品やシリアルナンバーの入った限定品のように、デジタル作品にも希少性の価値や明確な所有権の概念がうまれました。
最初にNFTが登場したのは2014年ですが、2021年に数億円から数十億円という高額取引があったことで取引量が急増。現在ではライブチケットやゲームのアイテム、仮想空間上の土地など、さまざまな分野で利用されていますが、とりわけアートの世界ではその存在意義を強くしています。
なにしろCGで描き、WEB上にアップされるデジタルデータに、美術館に飾られる絵画と同様の、唯一無二の鑑定や所有権の証明がつくのです。それはデジタルアートの世界を一変させる、まさに革命です。
尾花龍一さんと競馬との出合い
NFTについて知ったところで、いよいよ尾花さんを訪問。連絡をしてみると、快く迎えてくれました。そこでさっそく話題のNFTアートについて伺ってみると、意外にも自身の競馬や馬との出合いから聞かせてくれました−−。
1993年12月23日、有馬記念。
一年ぶりの復活レースを優勝で飾ったトウカイテイオーの美しさ、そして男泣きする田原成貴ジョッキーの姿に、当時小学生だった尾花さんは感動しました。
「騎手になりたい」
そう強く思った尾花さんは、中学卒業と同時に競馬学校を目指すも不合格に。それでも諦めず北海道の育成牧場に住み込みで働きながら騎手を目指すも、さまざまな条件の壁にふさがれ、その夢を断念しました。
夢を諦めた尾花さんは、競馬から離れた仕事がしたいと、大学検定を取得してグラフィックデザインの学校へ。卒業後はデザイン会社への就職、独立、起業と順調にステップを積み重ねてきました。現在、代表を務める株式会社モンスターズでは広告や商品パッケージ、演劇公演のグラフィックデザインなど、さまざまなグラフィックデザインを手掛けています。
しかし尾花さんには、くすぶる思いがありました。
それは、日本においてデザイナーの価値が低く見られがちなこと。
「僕はその状況を変えたかった。ではどうしたら良いか。何が足りないのかを考えたときに、“好きな事で稼げる”こと。デザイナーの中にも、夢を与えられるスタープレイヤーが必要だと思いました」(尾花さん)
しかしそれは簡単なことではありません。思い悩む尾花さん。そして行き着いたのは、一度は夢破れた競馬の存在でした。
「僕のクリエイティブで、僕の人生を変えた競馬を発信したい」
そう思い至った尾花さんは、2021年夏から実在の競走馬をモチーフにした「競馬和アート」をSNSで発信しはじめました。これが、サッポロ生ビール黒ラベル「JRA有馬記念缶」に描かれた、あの墨絵タッチのイラストです。
NFTアート「RHC」誕生のきっかけ
尾花さんが「競馬和アート」を発信しはじめた直後の2021年9月、インフルエンサーが取り上げたことをきっかけに、日本でNFTアート人気が急上昇しました。尾花さんの耳にもその話題は届きます。デジタルコンテンツの価値を高めるNFTは、デザイナーの価値を高めたい尾花さんにとってうってつけの存在。しかし「競馬和アート」は実在馬がモデルのため、NFTとして販売するには、さまざまな課題がありました。
「ならばオリジナルの馬でアートをつくろう」
そうして生まれたのが「RHC(Rampage Horses Club)」でした。
見事にタイミングが合った「RHC」はすぐに話題となり、各方面からコラボレーションの依頼も続々。
「売上金で馬主になり、競馬を盛り上げる」
という大きな目標を掲げ、その実現に着実に近づいています。
NFTを通してデザイナーの価値を高め、大好きな競馬にも貢献する。そんな尾花さんの夢は、次々と叶っているのです。
いっそう身近になるNFTは、いわば新たなインフラに
NFTアート自体は誰でも制作、販売することが可能。アイデアさえあれば、尾花さんのような成功を手にするチャンスは誰にでもあります。尾花さんは発信のヒントも教えてくれました。
「NFTの世界はコミュニティとの相性も非常に良く、SNSでのコミュニケーションも活発的に。あくまで僕の感覚ですが、海外はどちらかと言うと、投機・投資の意味合いが強いと感じますが、日本はこの“コミュニティのコミュニケーション”が重要な鍵を握っている気がします」
ニーズの把握、ユーザーの意見のフィードバック、モチベーションなど、相互のコミュニケーションは制作側にとってもメリットがいろいろ。そしてそのコミュニケーションの先に待っているのは、国境のない広大な世界です。
「NFTの市場は世界。お金に限らず、さまざまな夢が詰まっています。大切なことは、“何でNFTをやっているか?”というストーリーや熱量があること。それが揺るぎなければ、世界という市場は受け入れてくれるはず」(尾花さん)
尾花さんの波乱万丈なストーリーから見えたのは、NFTアートがお金を稼ぐ目的ではなく、自分の好きなこと、得意なことを伝えるための手段がNFTであったということ。それは見方を変えれば、世の中のどんな仕事や特技や趣味もNFTとして広まる可能性を持っているということ。
現状すでに、ふるさと納税の返礼品や、魚介類の所有権などまでNFTになって広まっています。この先はきっとまだ想像もできない形で、NFTが使用されることでしょう。それは一部の限られた人のための投資対象ではなく、いわばコミュニケーションや社会生活の新しいインフラのようなもの。自分の情熱をNFTアートとして発信する。クリエイターとつながり好きな世界をより深く好きになる。気に入ったデジタル作品を所有する。NFTとのつながりがどんどん強まるこの波に乗り遅れぬよう、今後もNFTの話題に注目してみてください。