東京の下町風情が今も残り、国内屈指の人気観光地として知られる浅草。その魅力は訪日外国人旅行者にとっても変わりません。先日、インバウンドの本格的な再開を見据え、外国人向けのモデルツアーが実施されました。そこで編集部では、半日に渡るツアーに密着。海外の人の目に浅草はどう映るのか、感想を交えながらレポートします。
今回同行したのは、インバウンドを想定した「浅草・外国人満喫ツアー」。台東区の協力のもと、新たな旅を創造するまちづくりカンパニー「エスビージャパン株式会社」が企画しました。
参加者は5名で、オーストラリア出身のセーラさん、イギリス出身のヘンリーさん、ブルガリア出身のアレクサンダーさんとターニャさん、ニュージーランド出身のローザリーさん。
今回はモデルツアーのため、都内在住の方々をご招待。浅草に来たのが初めての人もいれば、とても詳しい人も。どんな感想が聞けるのか、楽しみです。
浅草一望の穴場絶景スポット
スタートは、浅草文化観光センターから。建物は世界的建築家の隈研吾さんが設計したもので、館内では多言語での観光案内に対応。ツアーの始めにふさわしい、浅草観光のランドマーク的存在です。
観光情報コーナーに立ち寄ったあと、一行は最上階の展望テラスへ。そこでは、なんと絶景が待ち受けていました。眼下に浅草寺と仲見世の眺め、右手を見れば東京スカイツリー®。日本在住歴が長いセーラさんは来たことがあり、とてもお気に入りの場所だと言います。
「本当に素晴らしい眺め。有名になると混み合うから、あまり知られたくない場所ですね」
建物がリニューアルして10年目。歴史ある浅草の中では新しいスポットのひとつ。この絶景を知らない人は、まだまだいるかもしれません。
洋食は知られざる日本の味
建物を出て横断歩道を渡ると、そこは雷門。浅草のシンボルをバックに記念撮影をしてから、仲見世へと向かいます。大提灯の真下でふと立ち止まったのがヘンリーさん。そして皆で上を見ながら、なにやら盛り上がるツアー参加者たち。
同じく真下で見上げてみると、大提灯の底には見事な龍の彫刻が。つい見過ごしがちなところもしっかりチェック。目の付け所がユニークです。
仲見世を歩く一行は、あちこちと店をのぞきながら、とても楽しげな様子。
「扇子などの雑貨や小物、和菓子など、日本のイメージ通りの商品がここにはすべてそろっていますね。浅草観光とは別に、お土産を買うためだけに来てもいいくらい」と話すのはアレクサンダーさん。
ふらりと入った手焼き煎餅店でチーズせんべいを購入。
「海外の方は昔ながらの煎餅より、あられのようなひとくちサイズを好みますね。チーズ味も人気です」。ご主人に話を聞くと、そんな答えが返ってきました。
浅草寺でお参りを済ませたあとは、お昼ごはん。明治13年創業、日本初のバーとして知られる神谷バー2階の「レストランカミヤ」へ。
ランチセットは海老フライやかにコロッケを盛り合わせにした洋食スタイル。メニューを見たアレクサンダーさんいわく「欧米の旅行者が食べたがるのは天ぷら、そばなどもっと日本らしい料理。わざわざ洋食を食べに行く人は少ないですよ」。
今や和食は世界で知られる料理。でも、明治に生まれた「洋食」は、ダークホース的な存在なのかもしれません。
食品サンプルづくりに挑戦
昼食後は、人力車に乗って周辺をぐるりと巡ることに。利用したのは「えびす屋」です。
「現在、浅草の観光人力車は20社ほど。コロナ禍前は約3分の1が外国人客だったので、英語で対応できるよう学びました」と車夫は話します。
「こんな乗り物があるなんて、日本に来るまで知らなかった」と興味津々のターニャさん。
乗車後も満面の笑顔。「風が気持ちよくて、楽しかった。両親と妹にも勧めたい。それから、次回は浴衣を着て乗りたいですね」。
人力車を降りて向かったのは、合羽橋の「元祖食品サンプル屋」。商品を購入するだけでなく、食品サンプルづくりを体験できるお店です。
「食品サンプルは海外にない文化。ひと目でどんな料理かわかるのが素晴らしい」とアレクサンダーさんが言えば、「初めて見たとき、あまりによくできているのでこっそり触ってしまった」と笑うヘンリーさん。食品サンプルの存在自体がアンビリーバブルなもよう。
一行が体験したのは、天ぷらとレタスの食品サンプルづくり。最初はうまくできるか不安げな様子でしたが、終わると誰もが「楽しかった!」と満足した表情に。完成品は素敵なお土産になりそうです。
質の観光への転換を図る浅草
浅草まで歩いて戻り、「江戸たいとう伝統工芸館」をのぞきます。ここは東京桐たんすや江戸指物など台東区で作られている伝統工芸品を紹介する施設。約48種類250点余りが展示されています。
細やかな職人技に感心しながら鑑賞する参加者たち。すると「どこに行けば買えるのか、教えてもらえるのかしら」とセーラさん。
スタッフに聞くと、工房などの連絡先を紹介してくれるとのこと。確かに、本物志向の観光客なら値段が高くても手に入れたいと考えるかも。この施設は、伝統工芸の職人とインバウンドの橋渡しをする場所になりそうです。
ツアーの最後に訪れたのは、東京スカイツリー®でした。高速エレベーターに乗って、地上350mの天望デッキへ。この日は天気がよく、都心の大パノラマを見ることができました。
「街にいると大きさを実感できないけれど、鳥の目で見るとよくわかる。東京って大きな街ね」。そう話すのはローザリーさん。ツアーを終えた充実感が、その表情から見て取れます。
「今日は浅草の奥深さに気付かされました」と言うのはアレクサンダーさん。
「ツアーに参加することで、色々な体験ができました。ただ仲見世を歩くだけでは知り得ないことばかり。日本の宝物に触れた気がします」。
今回のモデルツアーに協力した台東区の担当者は、次のように話します。
「今後、感染状況の変化等に応じ、区の観光を復活させる取り組みの一環として、“量の観光”から“質の観光”への転換を図ります。参加者の感想やご意見が、“質の観光”を促進する施策づくりの参考となることを期待しています。」
ツアー中、外国人ならではの感想をいくつも聞くことができました。
そして今回同行して感じたのは、やはり浅草は日本人にとっても面白い!ということ。旅というには近すぎて、実はちゃんと観光したことがないかも…。そんな人は今度の休日、浅草巡りはいかがですか。
取材協力
まちづくりカンパニー「エスビージャパン株式会社」
TEL:050-3183-7712
メールアドレス:nakamura@sb-ja.jp (担当:中村)